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神戸女学院大学
准教授 
南出和余さん
 No,2

世界のアパレル産業を支えるバングラデシュ。過酷な労働条件に苦しみながら、縫製工場で働く実在の女性の闘いを描いた映画『メイド・イン・バングラデシュ』を観てきました。映画の日本語字幕を大学生たちとともに担当された南出和余さんは、神戸女学院大学でバングラデシュに関する研究をされています。字幕を付けることの苦労やバングラデシュでの活動についてお話を聴かせていただけることになりました。No,2は映画字幕製作秘話を聞かせていただきました。

メイサ:映画について聴かせてください。南出さんは映画で字幕を担当されましたが、なぜ引き受けられたのですか?

 

南出さん:個人的にバングラデシュの子どもについて二十年ほど研究しています。研究者として調べたことを論文や本に書くことが多いのですが、ドキュメンタリー映像も作っています。そういう活動を通してバングラデシュの映画監督などと知り合いました。バングラデシュにも素晴らしい映画がたくさんあるのですが、日本で紹介されることはほとんどありません。映画は社会を知るためにとても良いツール、機会になるので、もっと紹介したいと思っています。毎年3月に行われる「大阪アジアン映画祭」でバングラデシュの映画がセレクションで選ばれたらいいなと思っていました。「メイドインバングラデシュ」も応募作品の一つで、ここで上映されることが決まりました。外国映画を日本で上映する際は、必ず日本語の字幕が必要です。そこで、ぜひ神戸女学院大学の学生たちと一緒にお手伝いさせてほしいとお願いしました。あの映画は、元々ベンガル語の台詞に対して英語の字幕がついていたんです。私が教える英文学科の学生の中で翻訳を希望する人達30人がボランティアで作ろうということになりました。学生たちが英語から日本語に翻訳したんです。そうするとベンガル語→英語→日本語と二段階で翻訳されますよね?元のベンガル語の話とずれる可能性があります。そこで、私がベンガル語の台詞と学生たちの翻訳がずれていないかチェックして、できるだけずれないように調整をして上映しました。長くなってごめんなさいね(笑)

 

メイサ:字幕を付けるのにどれくらいの期間がかかりますか?

南出さん:字幕はプロが作っても最低2〜3週間はかかりますが、なんと3日間で完成しました。

メイサ:すごいですね!

南出さん:30人の学生たちがペアになって、それぞれのペアが95分の映画を8分ずつに分担して丁寧に訳します。その時に、他のパートとずれたらだめですよね?例えば「わたし」と言っている箇所と「あたし」と言っている箇所があるとか。困りますよね?それをずれないように調整する作業を3日間 朝から夕方までみっちりやりました。

メイサ:労働組合を作るには、どんな困難がありますか?

 

南出さん:そうですね。雇う側からすると、組合の主張する権利や条件を全部受け入れると利益が減るので、受け入れは難しいわけです。経営側と組合側は常に緊張関係にあります。映画に出てきた縫製工場の子たちのように、バングラデシュの子どもたちは高校や大学で労働組合や社会の構造について学んでいません。お給料や残業のことなど、しんどい思いをしている今の自分たちの環境が問題であることに気付くのが難しいですよね。映画にも出ていた人権団体のようなところがないと、気づくこともできません。そこが一番の困難かなと思いますね。

メイサ:そういう話を聞ける場はバングラデシュには少ないのですか?

南出さん:バングラデシュには市民団体がたくさんあります。そこでは貧困層のために色々な活動が行われています。メイサさんのようにバングラデシュに関わっている人なら身近な存在ですが、日本では知らない人がほとんどです。バングラデシュでは学校もNGOが運営しているので、地元でNGOを知らない人はいないくらいです。マイクロクレジット(銀行からの一般的な貸し付けを受けられないほど貧しい人たちに、無担保で少額の融資を行うこと)の普及もNGOが大きく関わっています。貧しい人たちがお金を借りて、それを元手に…元手ってわかりますか?例えば養鶏ビジネスを始めようと思ったら、ヒヨコを買わないと始められませんよね?でも、ヒヨコを買うお金もないので、貸してニワトリに育ててもらい、卵を産ませて売ればビジネスが大きくなりますよね?それで得たお金で、最初に借りたお金に利息を付けて返すというサポートをマイクロクレジットと言います。特に貧しい女性たちを中心に1980年代からスタートしました。マイクロクレジットは導入された村がないというくらい広がっていて、それを行ったのもNGOなんですね。だから、人々に広く知られています。高校や大学に進む人は日本より少ないですが、そういった労働組合のことなどについてはNGOを通じて知る機会がありますね。

 

ココナ:現在は労働組合が増えたのですか?

南出さん:はい、増えたと思います。バングラデシュのアパレル産業は、そのほとんどが輸出向けなんですね。ラナプラザの事故*¹以来、注文する側にも責任を求められるようになりました。コンプライアンスといいますが、一定の条件を満たした工場でしか発注してはいけないという項目が入っています。労働組合もその一つですね。組合がどれくらい機能しているかは場所によりますが、作りやすくはなったと思います。

メイサ:「メイドイン・バングラデシュ」の最後の終わり方が、個人的に「なんでだろう?」と思うのですが、なぜあの終わり方になったのでしょう?

 

南出さん:私も気になりました。初めて観たとき「えー、ここで終わり?」と思いました。監督に聞かないとわからないですが、「その後どうなるんだろう?」ということを観た人に思わせたかったのかな。完全なるハッピーエンドでもないし、悲劇でもない。ようやく組合を立ち上げたという意味ではポジティブな終わり方ですよね。でも、その後、組合が機能するのかを観る人に気にしてもらいたかったんじゃないかなと思いますね。

 

メイサ:シムが映画の中で「許可をもらえるまで部屋を出ない」と迫るシーンがありました。トークショーではその部分はもっとすごかったとお話しされていましたね。他にそういった部分はあったのですか?

 

南出さん:私が映画のモデルになったダリアさんという人から聞いたのは、旦那さんがもっと最悪なやつだったという話ですね(笑)実際にダリアさんが組合を立ち上げようとしたのは17歳くらいのことなんですね。映画では23歳になっていました。バングラデシュでは縫製工場で働くのも厳しくなっていて、8年生修了資格がないと働けないようになっています。縫製工場で働くことの良くないイメージを上げるためでもあるし、児童労働(バングラデシュでは14歳以下で働くと罰せられる)にフォーカスするのはこの映画のポイントではないからです。※ダリアさんの経歴をたどると14歳以前から働いていたことが明らかですが、その頃、罰則はなかったので、映画では実際の年齢よりも上の設定になっているようです。

 

メイサ:映画にあったように、縫製工場には男性は入れないのですか?

南出さん:仕事の内容によっては男性も働いています。バングラデシュの女性はとても手先が器用で、ミシンを踏む作業に向いているのでしょうね。セーター編み工場やTシャツプリントの工場は男性が多いですね。

 

ココナ:シムは私たちと同じくらいの年齢で村を出ていますが、実際にそういうことは多いのですか?

南出さん:縫製工場の女性は本当に貧しい家庭の人が多く、私が研究で見てきた子どもたちは30歳くらいになっているのですが、半分くらいはアパレル産業で働いています。大半は男の子ですね。その中の一人の女の子は小学4年生の時に学校を辞めて、お母さんと首都のダッカに行ったんです。お父さんは亡くなっていました。お母さんは家政婦さんとして働き、1〜2年くらいして女の子だけが村に戻ってきておばあちゃんの家で生活をしていました。さらに1年後、自分もダッカに行って縫製工場で働いていました。お父さんがいないとか、村に頼れる人がいない場合は女の子も働くことがあります。男の子は経済的に自立をしないと結婚もできないし、他に仕事がない場合はアパレル産業で働きます。女の子の親もできれば縫製工場で働かせたくないのですが、あれだけたくさんの女の子が働いているということは、働かざるを得ない状況だということですね。 

 

メイサ:私のしている活動やバングラデシュのことについて、もっと若い人たちに知ってもらいたいなと思っているんですけど、関心を持ってもらうためにはどういうことが必要だと思いますか?

 

南出さん:どんなことが必要だろう。あの映画は中学生にとって難しかったですか?

メイサ:やっぱり働いていないのでわからない部分もあったのですが、歳が近いので親近感はありました。

 

南出さん:そうですよね。映画などは社会を知るきっかけになるなと感じていて、それで『メイドインバングラデシュ』を紹介したいなと思ったんです。メイサさんやココナさんのように関心を持って聞きに来てくれるのはすごく貴重です。例えば私がここで講演をしますと言っても、そんなにたくさんの人が集まってくれないじゃないですか(笑)新聞で取り上げてもらっても、新聞離れが進んでいるので、若い人たちに読んでもらうのは限界があります。でも、映画はエンターテインメント、つまり楽しむためのものでもあります。そういった娯楽を通してバングラデシュに関心を持ってもらうというのは、広がる可能性があると思っています。また、最近、関西にはバングラデシュ人が増えているんです。お父さんの仕事の都合で一緒に来日している家族の人たちも含めて、何か交流ができるといいなと思います。

 

母:今後、バングラデシュ映画に関わるご予定はありますか?

 

南出さん:『大阪アジアン映画祭』でのバングラデシュ映画の字幕制作、上映の取り組みは、少なくとも5年は続けようと言っています。来年の3月にもまた上映する予定ですから、よかったらぜひ観に来てください。

 

メイサ:はい、ぜひ行きたいと思います。今日はご協力いただきまして、ありがとうございました。

 

*¹ラナプラザ崩落事故

2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊において発生した崩落事故。アパレルブランドの下請け工場が数多く存在するラナプラザビルが、朝のラッシュアワーに崩壊し、死者1,127人、行方不明者500人、負傷者2500人にものぼる犠牲者を出した。犠牲者の規模からファストファッション業界史上最悪の事故と呼ばれている。

【インタビューを終えて】

大学校舎の歴史を説明してくださる南出さん。

メイサ:南出さんは、穏やかな方ですごく話しやすかったです。神戸女学院の校舎は国の重要文化財になっています。丁寧に管理されていて歴史を感じる建物だなと思いました。今回お話を伺うまでは、バングラデシュは学校へ通えない子が多い国というイメージでしたが、95%の子どもたちが学校に通えていることを知り、思っていたより教育面が進んでいると感じました。また、定期テストの制度を知って、なぜバングラデシュの人たちは勉強熱心なのかがわかりました。教えていただいたことを今後の活動に生かしたいと思います。

 

ココナ:インタビューをすることが初めての私たちに対して、南出さんは親切に分かりやすく質問に答えて下さいました。始めはすごく緊張していましたが、優しく声をかけて下さり、徐々に緊張がほぐれました。インターネットで調べても出てこないような内容についても詳しく教えて下さり、バングラデシュへの理解を深めることができました。私はインタビューをする前、バングラデシュはすごく貧しい国だと思っていましたが、お話を聞いて、それだけではなく国民の生活に格差があることが分かりました。これから、バングラデシュのことをより詳しく調べ、また南出さんに質問させていただければなと思います。

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